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福岡高等裁判所 昭和57年(行コ)36号 判決 1984年7月31日

北九州市小倉北区妙見一の二〇

控訴人

平野耕治

右訴訟代理人弁護士

元村和安

北九州市小倉北区萩崎町一番一〇号

被控訴人

小倉税務署長

川邊正克

右指定代理人

堀江憲二

中村喜一郎

前田勇之助

岩田登

坂田嘉一

右当事者間の青色申告承認取消処分取消等請求控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和五一年三月九日付でなした控訴人に対する昭和四五年分以降の青色申告承認取消処分を取消す。被控訴人が昭和五一年三月一〇日付でなした控訴人に対する昭和四五年分ないし昭和四七年分各所得税についての各更正処分ならびに過少申告加算税及び重加算税の各賦課処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり訂正付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決事実摘示の訂正

1  原判決二枚目裏初行の「更に、」の次に「同四五年乃至同四七年分所得税につき」と加える。

2  同一六枚目表六行目から七行目に「一三九六万〇八一三円」とあるのを「一三九九万〇八一三円」と訂正する。

3  同一七枚目裏一二行目から一三行目に「後記原告の推計課税の合理性に対する主張は失当である。」とあるのを「後記被控訴人の月別在庫高の推計方法の合理性に対する控訴人の主張は失当である。」と改める。

4  同一九枚目裏二行目に「年間売上原価」とあるのを「年間仕入高」と訂正する。

5  同五〇枚目(別表七)表四行目に「<3>」とあるのを「<2>」と訂正する。

二  控訴人の付加した主張

1  銀行預金の中には控訴人の収入(これが所得税に関係ある部分である。)のほか、耕治食品株式会社の収入(これは法人税に関係ある部分である。)も含まれており、従つて、銀行預金を基礎に控訴人の個人所得を認定するのは不合理な推計方法である。また、本件仮名預金が「平野せいじ」の預金でないことの立証も尽くされていない。

2  銀行預金の中には、耕治食品株式会社と控訴人個人の従前の所得が混入していたものである。昭和三〇年ごろからの会社と個人の収益、所得の蓄積が銀行預金であるから右預金が本件課税年度の控訴人個人の所得とみるのは不合理な推計である。

3  預金の出入が、売上や支払を表すものであり、その額と日が合致する場合があるとすれば、それは控訴人の場合、当座預金であったのであるから、当座預金口座の出入であるとみるのが合理的である。

三  被控訴人の付加した主張

1  本件仮名預金が控訴人に帰属することは被控訴人の立証で明らかであり、「平野せいじ」その他の第三者のものでないことは勿論、耕治食品株式会社のものでもない。控訴人の右主張は納税義務を免れようとの意図からする言い逃れに過ぎない。

2  商人が所得隠しの目的で開設する仮名預金は、売上金等の収入を隠蔽するために利用されるものであるから、帳簿に記載せず納税申告で除外しようとする売上金等の入出金は、営業に密接に関連するはずの当座預金で行わず、仮名預金で行うのが、通例であり、控訴人の場合も意図的に簿外売上金を仮名預金に入金したものである。従つて、当座預金が控訴人の営業の売上げや支払いを表しているとする控訴人の主張は失当である。

3  本件仮名預金が控訴人に帰属することを個人、法人の両面から調査し、耕治食品株式会社の納税申告が正当であり、かつその資金が本件仮名預金の入出金に混入した事実のないことを確認のうえ、本件更正処分をなしているものである。

四  証拠

控訴人は当審証人山内英行の証言を援用した。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は失当であつて棄却を免れないものと判断する。その理由は、次のとおり、訂正、付加、削除をするほか、原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。原審における控訴人本人尋問の結果中右引用にかかる原判決の認定事実に反する部分は措信できず、当審証人山内英行の証言も右原判決の認定判断を左右するに足りない。

1  原判決二四枚目表三行目に「前掲中園」とあるのを「前掲戸田」と改め、同五行目に「同証言によれば、」とあるのを「同証言及び前掲中園の証言によれば」と訂正する。

2  同二五枚目裏四行目に「昭和四五年分」とあるのを「昭和四五年分、同四六年分」と改め、同五行目の「決算書類」の次に、「、同四七年分の備付帳簿」を加える。

3  同二五枚目裏一〇行目から同二六枚目裏八行目の「しかるに、」までを削除する。

4  同二六枚目裏八行目の「原告は」から同二七枚目表一〇行目の「不当ということはできない。」までのうち、同二六枚目裏八行目の「右推計方法によつて算出された数値」とあるのを「被控訴人が決算書に計上されなかつた売上金額、決算書に計上されなかつた仕入金額として認定した金額」と、同一一行目に「右推計方法は」とあるのを「被控訴人の売上金額の認定は過大で」と、同二七枚目表五行目に「後期認定」とあるのを「前記認定」と、同一〇行目に「右推計方法を不当ということはできない。」とあるのを「事業所得の認定を不当ということはできない。なお被控訴人が前叙認定のような方法で決算書に計上されなかつた売上金額、決算書に計上されなかった仕入金額を推認し、当事者間に争いのない決算書に計上された売上金額、同じく仕入金額と加算、減算のうえ、課税所得金額を算定して更正したことは、実額課税によるものであつて、所得税法一五六条による推計課税ではない。」と各訂正のうえ、該部分(前記「原告は」から「不当ということはできない。」まで)を、原判決三三枚目裏九行目と一〇行目の間に移記する。

5  同二七枚目表一一行目と一二行目を削除する。

6  同二八枚目表末行、同二九枚目裏六行目、同三一枚目裏九行目に各「事業所得の推計額」とあるのを各「事業所得額」と改める。

7  同二七枚目裏四、五行目に「七一〇万七一二五円」とあるのを「二九四万八〇〇〇円」と改める。

二  控訴人は、銀行預金の中には控訴人の収入のほか、耕治食品株式会社及び控訴人個人の従前の所得の蓄積が混入しているから、銀行預金の入出金を基礎に控訴人の個人所得を認定するのは不当であると主張する。しかし控訴人はこれまで一貫して本件仮名預金が控訴人に帰属するものではないと主張していたものであり、原審における控訴人本人の供述も、本件仮名預金は控訴人のものではないことを前提にし、控訴人個人の売上金も耕治食品株式会社の預金も銀行預金に持つて行つたというだけにとどまるもので控訴人の右主張を裏付けるに足るものではない。しかして営業に関連する預金の入出金の性質は、商人において比較的正確に把握しているのが一般であるから、被控訴人課税庁において仮名預金が控訴人に帰属していることを立証しかつ右預金が仮名を使用した控訴人の事業による売上に基づくものであることの一応の立証をなしている以上、簿外の売上金は簿外預金に結びつき易い道理であるから、控訴人納税者においてその入出金の経過ないし根拠を明らかにして控訴人の事業所得とは関係のない入出金であることの資料を提出しない限り、これを控訴人の事業所得の算定の基礎とするのが相当である。控訴人は本件仮名預金が控訴人に帰属することは否定しながら、それが控訴人に帰属するとしても、耕治食品株式会社の収入及び控訴人個人の過去の所得が混入していると主張するだけでそれを裏付ける資料は提出しないのであつて、採用の限りではない。

三  また、控訴人は、預金の入出金が売上や支払を表すものとすれば、控訴人の場合、当座預金口座の入出金によるべきであると主張するが、被控訴人主張のとおり、所得隠しの目的で開設する仮名預金は、売上金等の収入を隠蔽するために利用されるものであるから、帳簿に記載せず納税申告で除外しようとする売上、仕入金等は営業に密接に関連するはずの当座預金では行わず、仮名預金で行うのが通例であるところ、控訴人は仮名預金の入出金が簿外の売上、仕入と関連のないことの根拠を明らかにしていないものであり、控訴人の右主張も採用の限りではない。

四  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡徳壽 裁判官 岡野重信 裁判官 松島茂敏)

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